作業療法士toshiの就労支援

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脳損傷者の自動車運転再開について②

こんにちは、作業療法士のtoshiです。

本日は、前回の続き脳損傷者の自動車運転再開についてまとめてみました。(内容はThe Japanese Journal of Rehabilitation Medicine2019 年 56 巻 10 号 脳損傷者に対する自動車運転再開に向けた指導 渡邉 修 p. 810-814の文献を要約しました。)

1,神経心理学的検査と脳画像評価は?
2,ドライビングシュミレーター、実車運転の評価は?
3,具体的な指導について

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1,神経心理学的検査と脳画像評価は?

自動車運転再開に向けて,神経心理学的検査はスクリーニング検査としての意義が大きいとされます。

◎Marshall らは,脳卒中患者の運転能力評価に関する17の研究論文のメタアナリシスから,評価尺度として有益な神経心理学的検査を抽出し,遂行機能系,知覚・認知系,注意・記憶系,言語系の 4領域に分類しています。
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図 は,渡邉が使用している神経心理学的検査に置き換えてまとめたものです。臨床では,これらの神経心理学的検査の特徴を理解し,複数の検査結果を踏まえて,総合的に運転能力の可否を判断しているようです。

・全般的認知機能には,WAIS-Ⅲ(WAIS-Ⅳ)を使用し、下位項目の中で,運転能力を反映する項目として,数唱,語音整列,符号,積木模様が報告されている。また,群指数では,知覚統合,作動記憶,処理速度が,運転能力の評価のうえで有益な参考値となるとされている。

・注意機能は,Trail Making Test(TMT)A&B が有用でありTMT 成績と運転能力には強い相関があるとしています。

・遂行機能は,遂行機能障害症候群の行動評価 日本版(Behavioural Assessment ofDysexecutive Syndrome:BADS)

・視空間機能として Behavioural Inattention Test(BIT)を使用。BIT で半側空間無視が明らかであれば運転はできない.とされています。

◎Regar らは27文献のメタアナリシスから,認知症患者の運転能力に関する介護者のレポート内容は,唯一,視空間認知能力および知的能力(mental state)を測る神経心理学的検査結果と相関していたと報告しています。机上検査において,注意障害や半側空間無視などの高次脳機能障害が顕著である場合は,実車運転には至らない.

さらに,

神経心理学的検査では異常がなくても,運転という量的負荷(運転時間の増大)や質的負荷(市街地などの難度の高い走行路)がかかると,とたんに高次脳機能障害があらわになることがあることにも留意する必要がある

理由としては、神経心理学的検査は,机上の静かな一室で行われるからであり,軽微な半側空間無視は,机上検査では顕著でなくとも,路上運転において検出されることがあると報告しています。

◎武原らは,運転能力を評価するうえで参考となるこれらの神経心理学的検査結果の基準値を報告しており、基準値に至らない例は,実車評価を鑑みながら運転再開について,その是非を含めて指導を行う必要があるとしています。


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脳画像について脳 CT や脳 MRI脳損傷の部位と範囲を確認する必要があります。下記の部位が画像上広範に損傷されている場合は運転は望めないとしており損傷部位と範囲に沿った運転再開時の指導が必要としています。

〇両側前頭葉は,注意機能,遂行機能,ワーキングメモリー,展望性記憶,病識,感情のコントロール
〇右頭頂葉は,視空間認知。


2,ドライビングシュミレーター、実車運転の評価は?

渡邉らは身体機能,認知機能の評価にて運転再開の可能性があると判断された場合,ドライビングシュミレーター(以下DS) にて運転能力を評価している。
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(出展:Honda セーフティナビ)

DS は,ハンドル,ブレーキ,アクセル,ウインカーなどが模擬的に装備され,運転中はフロント画面に流れる景色と音響が用意され,より実践的な運転能力が評価可能である。

◎Imhoff らは,文献レヴューから,DSは,脳外傷者の自動車運転能力の評価および運転技術を向上させるためリハビリテーション治療として有用であると報告している。


実車運転評価について、
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◎Fox らは,1971~1998年までの文献レヴューから脳損傷者の自動車運転能力評価には机上の神経心理学的検査に加えて実車運転による 能 力 評 価 を 推 奨している。

また、

◎D’apolito らもまた,2000~2010年の文献を渉猟し脳損傷者の運転能力評価には実際の自動車運転(on-road assessments)が必要であると結論している。

◎Just らは,機能的 MRI を用いて運転をしながら話しかけられた内容が正しいか誤りかを判断する課題を行ったところ空間認知にかかわる頭頂葉の活動が 37%低下したと報告している。



3,具体的な指導について
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脳損傷が軽微で実車運転評価で問題のない場合でも,渡邉は運転再開を行う脳損傷例には,全例,8つの指導を行っているとのことである。

①あらかじめ運転前にルートを確認し、シンプルなものにする。運転の全行程は,迷うことのない,明確,単純で,渋滞などの妨害刺激の少ないルート,時間帯をあらかじめ選択しておく。
②運転前に,体調がよいことを確認する。睡眠不足や疲労感があれば中止する。
③運転時間を短くする。こまめに休養をとる。
④運転中は話をしない。ラジオなど聞かない。
⑤速度を上げない。高速は,前頭前野をはじめ大脳にとって負担となるので,事故に結びつきやすくなる。
悪天候時および夕方~夜間は運転をしない。
⑦なるべく同乗してもらう。適宜,運転能力をモニターし,随時,運転についての指示を受ける。
⑧なるべく安全運転設備が装備された車で運転する。


まとめ

脳損傷者が社会復帰をしていくうえで再び自動車を自ら運転できることの意義は大きいと思いますが、認知症てんかん発作などの脳損傷に起因する痛ましい事故報道もある。医療者は科学的な視点での脳損傷者に向けた安全な自動者運転のための能力評価と指導が求められている。患者が病院を退院する時点において,きちんと運転能力についての説明を行う必要があり、その際には,運転に求められる視覚機能,運動機能,高次脳機能などについて精査を行い,運転能力の可能性がある場合は,実車運転による 能 力 評 価 も行う必要があることが分かりました。


最後までお読みいただきありがとうございます。参考にしていただければ幸いです。

≪参考文献≫
◎The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine2019 年 56 巻 10 号 脳損傷者に対する自動車運転再開に向けた指導 渡邉 修 p. 810-814